石川博品をすこれ 『耳刈ネルリ』知っていますか

 

 

定期的に読み返しているお気に入りのライトノベル「ネルリ」シリーズ(全3巻)が、気が付いたらもう10年前の作品になっていた。

 

時間の流れの恐ろしさを改めて認識するが、このブログを読みに来るような偏屈な人間でもし未読の方がいたら、試しに1巻『耳刈ネルリ御入学万歳万歳万々歳』を読んでみて欲しいと思うくらいには好きです。万人向けの作品では無いけれど(1巻は特にアクが強い)。

 

タイトルになっている「ネルリ」はヒロインの名前なのだが、俺は主人公のレイチがかなり好き。繊細な感受性を持ち、処世術でなんとかやっていくタイプのお調子者で、自分が誇る友人や信条が傷つけられれば反撃に出る。普段は感情が妄想をそのままぶっこんだ地の文にカモフラージュされているが、客観的な事実として拾い上げられる情報や、時折洩らす文学少年みたいなモノローグから彼の人間性が垣間見えるのが良い。

 

現実が見えているし、腹芸もできるのに、我慢できないことがあると障壁を乗り越えようとする。そして最終的には丁度いい地点に事態が着地するように持っていく能力がある。

 

そんなレイチも、最終巻では自らに関して動かしがたい現実に苦しめられることになる。それは行き当たりばったりの処世術で解決できるような問題では無いため作中では決着せず、将来へ希望を託してエンディングを迎えるわけだが、それが結構なビターさで大変味わい深い。

 

全体的な評価だと多分学内でミュージカルをやる2巻が一番高いが、俺的には3巻が最エモ。わずかでも興味が沸いた方は肩の力を抜いて読んでみて欲しい。合わない人の方が多いと思うので先にごめんなさいしておきます。

 

1巻に関してはレイチの精神的負荷が高い出来事が多すぎるせいか愛読者の俺でもリアクションが難しい類の地の文(=レイチの妄想)がそこそこあるが、その手の箇所を読み流せるのが書籍の良い所だと思う(同じことをアニメの退屈なシーンスキップという形で対処しようとすると尺調節に手間取ってグダりがち)。

 

 

 

紹介記事っぽいタイトルなのに作品のあらすじとか世界解説が無いのは、1巻の混沌っぷりから徐々に情報が開示されていくカンジを味わってほしいからであり、決してもう10年間で何度も書かれてるような情報を載せるのがダリイと思ったわけではありません。決してね。