名探偵ピカチュウ 感想(バレ)

そこそこだった。

 

多分世界で1千万人くらいが呟いてると思うけど、ポケモン世界を違和感なく実写に溶け込ませる描写は圧巻に尽きる。アメリカンジョークを飛ばしまくりながら表情を豊かに動かすカフェイン中毒ピカチュウの可愛さもすさまじく、この2点が本作の魅力だろう。

 

特に世界描写のバランス感覚で感心したのはバトルの扱い方で、人とポケモンが共存するライムシティでは当然ポケモンを傷つけ合わせるような行為は違法になるのだが、やはりバトルに一定の需要があることはそのまま描かれていて、荒くれが地下の違法な闘技場にたむろしている。この流れだと本家でやっているバトルを否定するスタンスになるのか?と身構えていると、違法行為に手を染めているチンピラですら自分のポケモンを大切にしていることがセリフから伝わってくる(乳首コート男とリザードン)。

 

 

とはいえ、非常に素晴らしいポイントをおさえているだけに、悪いところが目につきやすくなることは避けられない。世界で5千万人が言ってるはずだが、シナリオは明白に悪かった。なお、現実的にブランドタイトルを制作する上では仕方が無かったのでは?というようなことは考えないこととする。俺はただ作品自体について思いを馳せたい。素晴らしい絵画は画家が金稼ぎの為に書いていたって素敵だし、鑑賞中にリアル事情を想像させるような作品は好みではない(低予算作品を否定する意図は無い)。

 

予告の時点で99%の人間が予想した通り、結局ピカチュウに父親の魂が入っていたというオチ。それ自体はいいのだが、ポケモン映画としての説得力を補強するための展開が貧弱。ポケモントレーナーの夢を諦めてパートナーを作ることも拒んできたティムが事件を通して成長し、再びポケモンと向き合えるようになっていくという流れを見せるには描写が足りておらず、単にポケモン世界を舞台にした父と子の物語にとどまってしまった印象が拭えない。ティムはピカチュウではなく、父と交流したからこそ精神的に成長できたし、ポケモンとの付き合い方を学べたし、女の子との会話の仕方さえも一緒にレクチャーしてもらえたというわけだ。エンディングでも結局ティムには純粋なポケモンのパートナーがいないままだけど、お父さんと復縁できたからめでたしめでたしでスタッフロール。

 

※ティムのポケモンとの距離の置き方には、父親との喧嘩が枷となってポケモンへの想いが封印されていただけで、実際はポケモンとの接し方自体は忘れていなかったという見方もある。その場合、父ピカチュウの役割は自信がティムにかけてしまった呪いを解くという、ある種マッチポンプ的な側面も担っていることになるわけだが、とりあえず上の流れで多少の齟齬があってもそれほど問題が無い類の作品だと思ってサクッと書いた。

 

これを言ったらおしまいかもしれないけれど、ストーリー的にはポケモンが使われなくても問題無い状態。「犬が島」を見習ってくれ。

 

見事に構築された世界観が担保する物語の強度も、黒幕の謎思想&謎行動によって瞬く間に失われてしまっているのも非常に歯がゆい点。ただ、ピカチュウが孤軍奮闘するシーンそのものは凄く良かった。

 

 

なお、この記事をアップしてから数年後に閲覧した方のために書いておくと俺は劇場でこの映画を観たのだが、スタッフロール後にミュウツーの逆襲続編の予告が流れてきて目を疑った。流石に無粋すぎるので映画スタッフではなくIP運用者の意思なのではないかと予想するが、いかにも商業的な売り方を優先して作品のわずかに残った余韻すら吹き飛ばしてくるのは、センスというか作品への姿勢を訝しんでしまう。もう少しスマートな手段をとってほしかった。