このすば劇場版 紅伝説 感想 (ネタバレあり)

 

 

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非常に面白かった。

 

いつも通りエンタメに徹しており(意外とカズマが好きな女性ファンが劇場に多くて驚いた)、最序盤こそ退屈だったが、紅魔族の里に着いてからどんどん面白くなっていった。

 

このすばって、各登場人物が個人の利益(快楽)を追求していて、そこに王道展開への逆張りもミックスされているのだけれど、キャラクターの芯がブレないから変な違和感を覚えずに楽しめるから良い。

 

特に感心したのは、あれほど爆裂魔法にこだわっていためぐみんが、爆裂魔法の道を捨てて一般的な上級魔法を習得しようとするまでの過程。茶番感というかレールに無理やり乗せて形にしてるような雰囲気がなかった。

 

カズマを筆頭にとにかくイレギュラー要素が多い本作品の中でも、爆裂魔法は特に異彩を放っている。1日に1発しか撃てないし、威力と範囲が大きすぎる為ダンジョンのような閉鎖空間では使用できないし、一般とズれた感性を持つ紅魔族の中でさえ呆れられ、母親にすら「そんなネタ魔法はやめなさい」とコメントされる始末。

 

爆裂魔法の威力は確かに凄まじい。魔王幹部クラスにすら届く威力ではある。でも劇中で先にカズマや里のみんなの命の危機を救ったのは、自己よりも他者を助けることを優先した過去から上級魔法の習得が遅れた過去を持つゆんゆんだった。習得が遅れた原因は、妹の危機より爆裂魔法習得を優先してしまっためぐみんの業にあり、爆裂魔法自体も個人欲求の為に周囲の迷惑や負担を考慮しないような設計になっている。

 

上級魔法でみんなを助けるゆんゆんを目にしためぐみんが己の業を再認識し、爆裂魔法を捨てようと考える流れには筋が通っている。それをカズマに止められて爆裂魔法の道を継続することになるわけだが、それについてもしっかり視聴者が納得できる情報を事前に出されているので予定調和っぽさも薄く納得できた。

 

どんな情報かというと、今回ボスを務めるシルヴィアのふるまいとそれが導いた結果がそれにあたる。最初の方で書いた通りこのすばでは自己にとっての利益を追求するキャラが多くて、割とみんな俗っぽく欲望に従っているのだけれど、シルヴィアは特に凄まじい。世界を滅ぼすとか謳われているレールガンで消し飛ばされたにも関わらず、生死を超越して蘇生してのけるのである。しかも死亡済の魔王軍幹部2体を強化オプションパーツのように携えて。

生き返って力をふるうなり「好みの男の子に愛されたかった」と主張し始めるので、恐らく愛を得ることへの非常に強力な欲望、あこがれ(=ロマン)によって復活したものと思われる。

 

シルヴィアはカズマと同化している間、「愛!」「未来!」「希望!」とキラキラワードを連発して幸せの絶頂にいる姿を見せる。結局その愛をカズマに利用されて再び殺害されることになるわけだが、「でも好き!」的なことを言い残して悔い無く消滅する。

 

"自己にとってのロマンを極限追求することで生死(=世界の理)すら超越できることを証明し、その果てで死亡したとしても一切未練なく幸福に終われる"

という実例をシルヴィアが生みだしたことは、めぐみんが彼女のロマンである爆裂魔法を優先させてきた過程について、視聴者に対して強い説得力を与えていると感じた(思い込みか?)。

 

爆裂魔法はめぐみんにとってのロマンではあるが、実用性に欠け、周囲に迷惑をかけることが多い。個人のロマンは素敵なものだから上級魔法よりも優先するべき!という理由だけで爆裂魔法を継続していたら創作文法っぽさが出てしまうところだが、前述のシルヴィアのおかげで、ひとりよがりのロマンでも突き詰めるとすごいことを実現できるということがわかる。つまり爆裂魔法も今はネタ魔法扱いされてるけど上級魔法にはない固有の強みを発揮できる可能性があることになる。

 

また、ロマンを突き詰めて無敵状態になったシルヴィアとの決着として、めぐみんのロマンによって鍛え上げられた爆裂魔法を集団で協力・強化して放つ解法にも趣がある。カズマが言うように爆裂魔法には確かな実績があり、実用性で劣るネタ魔法でも、運用方法を他者とすりあわせることで独自の優位性を発揮することは十分可能(1期最終決戦みたいに)。

 

めぐみんが爆裂魔法を捨てようとするのもそれをカズマがハネるのも、それぞれに理がある為スカッとした後味になって大変すばらしかったという感想になります。

 

個人的に一番好きなシーンは紅魔族4人が自己紹介をするシーンで3人目のバンダナが発した「アイ...キル...ユー...!」。ツボに入りすぎて4人目の口上を聞き逃したことを後悔している。

 

 

このすばのTV版そこそこ好きだったわって人ならいまのうちに劇場行った方がいいと思います。あー面白かった。