ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド 感想

面白かった。

 

タランティーノ映画といえば退屈な長話、そこから無慈悲な暴力への突然への転調へのイメージが今でも強烈なのだけれど、本作はそれを映画一本の尺を全て使って実行しているような印象がある(これはオチまでの過程が全て退屈だったわけではないが、ヒッピーに食い物にされるかつての仕事仲間や繰り返されるシャロン・テートの日常描写など、"溜め"が多めだったくらいのニュアンス)。

 

再起に賭け、葛藤するニック・ダルトンと飄々としたクリフ・ブースとのブロマンスが描かれるかと思いきや『兄弟以上、妻未満』なのにも笑ったが、最終盤の爽快感が全てを持っていった。

 

昔「アメリカ人はスプラッター描写を笑って享受している」という趣旨のハナシを友人から聞いたときはオイオイオイまじかよ。やっぱ狩猟民族はぶっ飛んでんなとか思っていたのだけれど、そんな俺もクリフとブランディが大暴れするシーンで気がつけば腹から声を出して笑っていた。人生で初めての体験。

 

途中まではずっと現実に根ざした、フィクションの裏側を明かすような地道な展開が続いていたのに、作中を通してニック以外の人物からは暴力的なにおいを理由に敬遠され、拒絶されてきた、今作における暴力の擬人化とも言える存在であるクリフ・ブースがついに暴力を解き放つと共に現実味を帯びるよう地固めされていた世界が溶解し、フィクション作品としての閾値が急激に跳ね上がり、愛らしい相棒のブランディさえも凶暴さをむき出しにする。驚異にさらされた悪魔たちは絶叫を繰り返すことしかできず、シメを持っていくのは往年のスターであるリックが実習で獲得したフレイムスロワー!残虐な絵面なのにBGMの相乗効果もあり、笑いが止まらなかった。この転調を楽しむことが第一に来る作品と俺は受け取った。2番目に来るのは監督の映画(あるいはフィクションに向けた)愛を感じることだと思う。

 

今作を観るにあたってシャロン・テート事件以外の一切を履修していないので、今でもブルース・リーがなぜあの扱いになったのか飲み込めていないのだけれど、まああれもこれも多分映画史的な文脈さえおさえていれば理解できる内容なのだろうと思いつつ、タランティーの映画愛を感じ取りラストシーンに大はしゃぎできれば受け手としては及第点だろうと捉えておく。良い娯楽作品だった。