かなり良かった。
2025年に観たアニメ映画ベストかも。
好みによって評価が別れる作品でもある。
古川日出男の原作は未読。
冒頭から亡霊の琵琶法師によって平家が滅亡する様子をおどろおどろしく映し出し、奇妙な仮面と呪われた赤ん坊のエピソードを挟み、さらには突然海に潜る少年にシーンが移り...とひたすらテンポ良く描かれる美麗なアニメーションに見惚れていたので、友魚がいきなりロックやりだすまで奇天烈痛快なミュージカルアニメーションという触れ込みを失念していた。
アニメーションとしてはやはり犬王(CVアヴちゃん)のパフォーマンスに焦点が定まっていると断じていいのではないか。友魚による歌唱はあくまでも座組のなかでのオーヴァチュアに過ぎない。
とにかく犬王の舞う猿楽が心地いい。室町時代なのにインスパイアされた市民がブレイクダンスを踊り始めたり、演奏が進むにつれどんどん現代的な音源が増えていくようなフィクションラインの伸ばし方とタイミングがうまい(ブレイクダンスのくだりは真剣な人に文化盗用と怒られそうではあるがそこも含めて面白かった)。そもそも物語の冒頭で草薙の剣が大惨事を引き起こしていたり平家の亡霊が存在しているような世界なので、リアルよりもエンタメを重視している点も違和感なく受け入れることができた。友魚の演奏パートはやや尺が長いが、素直にグルービーだと感じるサウンドで満たされた桶に顔を突っ込んで没入できていた(特に『腕塚』と『鯨』)。
完全に新しい能楽を演じるのではなく、今となっては古臭い印象さえ与えてしまうが当時は斬新であったろうとされるロックのテイストを持ち込んだのは興味深い。芸術領域において完全な新機軸を打ち出せというのは無理筋であるから、琵琶法師の友魚がバリバリのロッカーに転身する様子で観客のガードを下げ、続いて犬王のパフォーマンスでエンタメに寄せる方向へ舵を切ったのは英断であろう。
ただ、トリの『竜中将』には全く感じ入ることができなかった。ワイヤーアクションはいいけどアクションが素直にアイススケートやバレエすぎる!光源ギミックも、転調しての歌唱デュオも、〆に出現した龍が友有座による仕掛けなのかガチのフィクション要素なのか見分けがつかなかったのも、それほど良いとは思えなかった。回想への入り方、そしてその始まりを即座に「俺の話はいい」とスキップする友魚のくだりは好き。
犬王が呪われた経緯や再序盤の辻斬りを終盤で衝撃の真相っぽく出してくるけれどもそこは別に割とどうでもよかったわ程度の感想だったが、物語全体としてはテンポがよくかなり肯定できる。犬王と友魚は特に政治的な思想を持っているわけでもなく、あくまで亡霊達の無念を最優先としている。犬王が亡霊の無念を語る度に呪われた肉体が本来の姿へと変化していっても、犬王自身のスタンスや自己の在り方は変化しない。彼の特異性は異形の肉体ではなく、むしろそれを背負わせられたことによる社会的な差別などを一切意に介さない精神性にある。だからこそすべての亡霊の無念を晴らし、友魚を危険に晒さないために怒りを抑え込んで歴史の影に埋没したあともなお、数百年親友の姿を探し続けられるし、魂も摩耗しない。過去の亡霊の無念を浄化した犬王が、次は親友の無念を晴らしにいくこの行程にはおそらく躊躇などは無かったのだろう。
とはいえ、犬王の精神性がそれほどまでに強固なのであれば、舞台でのパフォーマンスに直接影響を与える要素となる肉体の異形性がどんどん薄まっていくのは、たのしいアニメーション鑑賞を求める人間としては少しさびしいところでもある。長袖と義手を利用して異形の長腕をカバーし、パンチラインにも腕が関係している『腕塚』は本当に素敵だったのだけれど、顔をのぞいて最も特徴的な長い腕が早々に消失してしまうのは複雑な気分であった。最後に背中をさらす『鯨』も、やはり『腕塚』に比べるとおとって見えてしまう。