めちゃくちゃ良かった。
これまでサポート系カードのコミュはユニットのわちゃわちゃを見物するためのもので個人にフォーカスされることはないと考えていた、てか、思い込んでた。思い込みで良かった。
浅倉透はオーラがあるけど人並みに抜けているところがあって、本人の自己評価はそれほど高くなくて(【10個、光】での食事金額に見合う働き~や【途方もない午後】での「よくな~い」でもそれがわかる)、じゃあ見掛け倒しの凡人なのかというと、独特の感性と行動原理、多様な人々を引き寄せる器を持ち、平穏な日常を知り合いと過ごすことに長ける一方で、心の底では未知、高いところに位置するものへの興味と感心が強い。ロマンチストではあるが常識もある、というバランス感覚が物凄い人物だが、本コミュではその浅倉節がにじみ出ている。
・浅倉とロマン
浅倉は未知なるものや、高みにあるものに憧憬を抱いているように思われる、ただ無邪気に非日常の実在を信じ込んでいるわけではないようだ。
1つ目のコミュタイトルは「多分おそらく、絶対」だし、一般的に宇宙人という概念がどのように認識されているかもわきまえていることがモノローグにも見てとれる。
「『そんなことはない』って、──そんなものに遭遇することはないって」
「言わないでくれてよかった 偉い人」
・強い関心とそれを抑える一般常識
太陽を見ると目が焼けるという小糸の忠告に対して、
「空の上はめちゃくちゃ広い、たぶん
めが やけるくらいの光が あるくらいだから」
浅倉はかえって空の上への興味を強めているが、しっかり忠告は聞き入れて目視なしでのスマホ撮影に切り替えている。
非日常を見上げながらも、地に足はつけているし、そうするように促されてもいる。
公園の場面でも一人粘り強く宇宙人を呼び続けるが、宇宙人は現れず、また日常で盛り上がっている幼馴染達を目にして接触を諦める(何気ないことだが、浅倉が空の上に呼び掛けているのに対し小糸が地表を用いて三並べや一筆書きで遊んでいる対比が面白い)。
こうした一連の流れは、幼馴染達が浅倉の枷になっている、というわけではなく、あくまで浅倉と世間一般的な常識との距離感を示唆していると受け取った(個人的にもそういう風に思いたくないし、浅倉もそういう風に受け取って欲しい人物ではないだろう)。実際幼馴染達もまた偉い人同様、宇宙人の存在を否定しないし、浅倉を揶揄することもない。興味が全然ないのにある程度は合わせてくれている。
最後のコミュ「うわの宙」では、文字通り浅倉が人工衛星説に内心強いショックを受けていたことが示される(頭の中でずっと周っている)。
浅倉は夏休みの宿題という日常業務を投げ出して非日常に想いを馳せつつ、既に出現した光が人工衛星によるものだという説をほとんど受け入れてしまっている。
「どっかに行きたい力と、行けない力で
ぐるぐる周る星」
「人工衛星はUFOになりたいですか
それともそのまま周ってる感じがいいですか」
空の上へ到達しきることなく、その入り口で留めさせられるように設計され、動かされている人工衛星に対してそのままでいいか、よくないかと問いかける心境はそのまま浅倉の現実にあてはまっている。
私的にはアイドル活動での浅倉は(少なくともこの時点では)単なる浅倉の生活の一部分にすぎず、またプロデューサーと再会できたからといってこうした未知なる高みへの興味や関心が薄れるというわけでもないのだろうとおもっている。
「そっちはどうですか UFOもしくは人工衛星──」
最後にそう問いかける浅倉から醸し出されるある種の諦めと切なさがいい。おそらく時系列的にはこの後に夏休みを締めくくったであろう『天塵』ラストや【10個、光】コミュTRUEへと繋がっていくのだろうが、浅倉個人はさておき浅倉が憧れ、追い求める他の存在が、またそこに当てはまらなかった人工衛星のような存在が記憶に残り続けるのかは浅倉のみぞ知るのだろう。
最後の問いかけ方には浅倉の誠実さが込められていて(自分のエゴを人工衛星に押し付けていない)、彼女の人物的な魅力を十分に掘り下げる良質なストーリーだった。しっかり日常へと回帰するオチが用意されているのも流石。
・花火と時系列
コミュ内でさらっと流されていたが、宇宙人が来たと思ったら花火で全員なーんだってなるシーン。
浴衣着て、浅倉以外は髪型アレンジまでして夏祭りに遊びに行ったのに、大多数の人にとっては祭りの主役になり得るであろう打ち上げ花火には関心が薄かったことが示されている(そもそも早々に会場から引きあげてのイカ焼きだった)。
花火といえば天塵ラストでノクチルとの対照性を浮き彫りにしていたのが記憶に新しく、サマーキャンペーンでも浅倉が花火に対抗心を燃やしていると深読みできなくもないコメントをしていた。時系列的に本コミュが『天塵』後なのかどうかははっきりしていないが、どっちでもこのリアクションになるのが幼馴染達らしいかなあという印象。