
かなり良かった。
今年のベスト映画になる可能性は非常に高い。
構成は清々しいまでにシンプルではある。カンフーアクション、血で血を争う黒社会の抗争、男同士の友情、1980年代の九龍城砦で築かれる疑似家族的共同体の絆。
毎日基本技のみを鍛錬して達人の域に至った武術家の寓話のごとく、本作は鬼気迫る烈しい闘争と、ガヤガヤしながらもどこか暖かい穏やかな九龍城砦の日常描写、登場人物が個々に抱える葛藤、それら基本的な要素を超ハイレベルに練り上げることで作品をエンタメのマスターピースに引き上げている。この手法はラージャマウリの神話的英雄を描く映画シリーズと通じるところがある。
ただでさえ舞台のほとんどは九龍城砦、至るところでヒロイック・フレームが発生する。あの竜巻が舞い上がるなか龍と同じ獲物を握りやってくる陳のシルエット、あの死ぬほどキメキメでめちゃくちゃ格好いいカット────を、本作は不気味なまでにあっさりと一瞬で流してしまう。ショットのなかで過剰な格好良さはあえて淡泊に済ませてしまい、外連味たっぷりなカットに時間を割り振っていく。逆に、一瞬のめちゃくちゃ格好いいカットが脳裏に焼き付いてしまう罪深い手法だ。
またスタッフロールに至るまで瑞々しく描かれる生活描写の中でも、貧困を耐えて重労働にいそしむ陳の食事シーンは特にお気に入り(本当に美味そうだった!)。『少林寺木人拳』にジャッキー・チェンが罪人の前であえてうまそうに饅頭をほおばってみせる名シーンがあったが、あれを彷彿とさせる。ひとつひとつの描写を徹底的にやっているからこそ、観客は陳と九龍城砦の人々に感情移入することができ、固唾を飲み拳を握って決戦を眺めることができる。
俺が作品の個別記事を設けるのは珍しいのだが、実のところ書くことはあまりない。そもそも映画は観るものである。というのはさておき、最初に書いた通り本作の構成そのものはいたってシンプルであり、すべての要素に全霊をかけるタイプのでエンタメなので、徹底してエッセンスを凝縮し必要な部分以外をそぎ落としている本作に言葉を尽くす必要性は感じない。別に人生の深い意味みたいな大仰なテーマを扱っているわけではないしな。テーマが素朴であればあるほど俺には響くのかもしれない。
小学校低学年の頃は父がレンタルビデオ屋で借りてくるカンフー映画をかたっぱしから貪っていた。もっぱら蛍光灯の紐を相手に功夫を積み、最も過酷であり地味な体作りの修行を再現することは一切無かった。そのへんのジャリでも観終えた直後だけは目つきが虎のそれになる、カンフー映画を観るというのはそういう類の体験だったと記憶している。20年の時を経ていい歳こいたオッサンになった俺は、今晩虎の眼になって映画館を出た。本作もまたそういう類の映画である。HIGH&LOWとかRRRとかワイルド・スピードみたいな映画が好きな、俺みたいなシンプルな男はすぐに劇場に観に行くように。