バットマン -BATMAN- 感想

面白かった。

 

 

まだまだ青い時代のバットマンを描く映画だが、映画開始時点で既に街のチンピラはバットマンの暴力と恐怖に支配されており、ただバットシグナルが点灯しただけで逃げ出していく。

 

バットマンは徹頭徹尾暗闇の中から重装備を伺わせる足音を発しながら無言で登場する。「その人に手を出すな!」などのヒーローっぽいセリフは一切無い。彼は単なるヴィジランテであり、悪に対する復讐しか眼中に無い。ゴードン以外の警官にはドン引きされているが、一切関心を持つことも無い。

 

いかにもノワールな雰囲気で進行していくが、この3時間という尺をどう扱うのか?という疑問には、地道な探偵パートを徹頭徹尾丁寧に見せることで応える。臭さや陰鬱さを醸し出しながらバットマンによって進められていく捜査は、アメコミのコマ割りをそのまま映像で体験しているかのようだ(終盤の、クラブ守衛を締め出して侵入するシーケンスのちょっとしたコミカルさもそうした雰囲気の再現度が高い)。バットマンが徹底的に優秀な探偵として描写されているからこそ、その上を行くリドラーの異能ぶりが光る。

 

ブルース・ウェインとしての姿がスクリーンに映る時間はバットマンの4分の1程度に感じられたが、大富豪ながら表社会に適合していない様子の説得力が非常に高く、非常に印象深かった。猫背で、茫洋としていて、目にはクマがあり、病的。対照的に、バットマンのスーツに身を包んでいるときは毅然としている...暴力を躊躇いなく解放できるバットマン状態のほうが素であることはリドラーにも指摘されていた(よね?)

 

作中では悪人にとっての恐怖そのものであるバットマンも、高所から滑空するときは怯えを垣間見せたり、ロープをカットするまでに気持ちの準備を必要としたりと、まだまだ未熟な部分を垣間見せているのも、どれだけ強くてもひとりの人間枠を出ないのを突きつけていていい。

 

終盤でリドラーが明かす、悪の抑制を目的としたバットマンの暴力と恐怖による支配がむしろバットマンの信条への同化を誘発するきっかけとなり、結果的に悪を助長してしまっていたという真相はかなり良かった。本作のリドラーがゾディアック事件のインスピレーションを受けていることもあり、伊藤計劃が昔書いていた記事を思い出した(下記に引用する)。

 

projectitoh.hatenadiary.org

 

伊藤は記事内で『世界精神型の悪役』について「世界に認識の変革を迫るヴィジョンを演出することで、ある事物の本質を抉り出すことそのものを目的とし、どんな現世利益的な欲も動機や目的にはしない、そんな悪役」と言及していたが、リドラー(とそのフォロワー)は明らかにその真逆、俗悪に寄って立っている。そのままお出ししてしまうと身も蓋もない、エンタメが成立しないつまんない狂気キャラになってしまうのだが、理性ある狂人のバットマンが示した行動に理性なき狂人として共鳴してしまったが故にモンスターとして完成されてしまったという落とし所はかなり見事だ。

余談だが、日曜日に映画を観終え、感想を脳内で整理している期間に下記のツイートを目にして、俺はTwitter見ずにさっさと感想書くべきだったと後悔した(俺より的確で的を得た感想のように思える)。

 

 

 

悪の支配だけにフォーカスしていたバットマンが、リドラー事件を契機に明確にヒーローとしての萌芽を迎え、市民の救助にまわり、心境を変化させ、よりよい影響をもたらせると信じるようになるのは心地よい。陰鬱で灰色で最悪なゴッサムシティの町並みにかすかな希望が灯る様子が表現される。

 

でもその直後にセリーナは「どうせ何も変わらないし、あんたはそのうち死ぬ」と言い放つ。いいかんじの雰囲気でそのまま終わらせずしっかり釘を刺し、傍目には彼女の方が正しいような空気が出つつも、復讐者として悪人サイドだけを見るのではなく善人サイド(市民ら)を守り、導く方向に希望を見出したバットマンは(狂っているので)決意を変えない。最後の顔アップが最高にすがすがしい。

 

と、俺的にはかなり満足度が高く、誘ってくれたひふみさんに改めて感謝申し上げたい。

 

で、ここからはイマイチだった点。

 

・セリーナとのロマンスが唐突

キスまで行くのは流石に唐突すぎない?バットマンの「一線を超えるな」発言が終盤ブーメランになるように、彼女関連のシーンはかなり重要なのだけれど(自由に生きれるセリーナと執着の中でしか生きれないバットマンの対比とか)、どう見積もってもキスまでする間柄まで進展したようには思えない。

 

・なんかフワッとした最後

本作ではバットマンの両親が完全な善人ではなく、過ちを抱えていたという設定。両親の善性を完璧なものと信奉していたバットマンは大きな衝撃を受けるし、追い打ちをかけるように自分が街に悪い影響をおよぼしてしまったことを知る。

で、こうなるともう方向性的にはバットマンじゃなくて表の顔の慈善家として頑張ったほうがいいんじゃね?感が出てくるんだが、そういう具体的なやり方には目は向けず、ナレーションで「これからはこういう風に考えよう」みたいなことをフワッと述べるだけに留まる。本バットマンがシリーズを予定しているのかどうか俺は調べていないが、続編展開やバットマンのオリジン知ってるの前提だとしてもここはちゃんと本作内で示してほしかったので、ちとフワッとしちまったな~感がある。

 

 

続編には期待しているが、今ジョーカーを出すのはいろんな意味でシナリオ苦しそうなのでどうその点をクリアするかが気になる。