人狼系作品の感想 / 月見月理解の探偵殺人、レイジングループ、グノーシア

なんとなく人狼系作品を連続で3つ摂取したので、その感想を遺していく。

 

月見月理解の探偵殺人

面白かった。

 

異常なまでに自省的な少年、残虐なふるまいを行う異能持ち美少女、様々な作中内ゲーム、一部ミステリ要素、ケレン味の効いた二つ名、不穏な空気感等々、かつて慣れ親しんだ風味がした。

 

「○○フォロワー」系の表現は避けるようにしている。確かに戯言の影響を明確に受けていそうではあるのだが、気軽になにかのフォロワーであることを強調してしまうと(たとえ字面だけでも)、内心の受け取り方にすら悪影響が出る可能性がある。

 

読み進めやすくてあっというまに読み終えたが、1巻の主人公の自省描写だけは鼻についた。彼の自省がそれとなく真摯なものと描写するのは、善性に包まれた悪性を開示しているように見せかけて、ハリボテ程度の悪性に見せかけた核たる善性を担保しているようなものだ。あざといまでの迂遠な主人公肯定は好みではない。他者に肯定されないものにこそ惹かれる性質なので、1巻で彼が自身を否定して少女は逆に肯定する空気はやや過剰なものに感じられた。

 

2巻から5巻も飛び道具まみれでひたすらメタを外す展開が続いたが、メタを外すためのメタ外しではなくて作者が見せたいものを見せるためのメタ外しだと感じられ、素直に心地よかった。4巻後半の決着だけはいささかチープすぎるし、ライバルの格も落ちてしまうので残念だったけれど、ドラマを優先したのだろう。

 

表題にもある「探偵殺人ゲーム」は割とモロに人狼をモチーフにしたゲームだが、他者を悪とすることに主題が置かれている点が興味深く読めた。俺は本家人狼初心者なのでゲーム性の違いはよく把握できていないが、絶対的な正解が存在しない世界の中では他者をハメるためにロジックが行使されるという解説はわかりやすかったし、作中の展開にも結びついていた。実際に本格的な探偵殺人ゲームが開始されたのは4巻以降だったが。

 

 

ライナーノーツによれば交喙の人気が凄かったそうだが、俺的には印象が薄い。キャラクター的な完成度云々ではなく、作品が発売していた時代(2010年前後)にクーデレキャラが流行していたとか(しらんけど)、そういう方面の影響なのでは?などとしかるべきソースも無いまま素朴に思ってしまうほどには月見月理解の方が印象深かった。初の理解への寄り添い方が良かったからだろうか(理解以外には塩対応だったし)。益体もない言い方だが爽やかなボーイミーツガールものとしての完成度がずば抜けて高く、思いがけない満足感を得られる作品だった。

 

■レイジングループ

ADV。面白かった。

 

現実に限りなく近い世界で人狼ゲームが起こるとしたら、どのような歴史的経緯があるのか。なぜそういう決まりが発生するのか。人狼ゲームに投げ込まれた参加者はそもそもルールに素直に従うのだろうか。という観点に対して模範的な回答を叩き出している。

 

ゲームがわかってるやつとわかってないやつがごちゃ混ぜになりつつ人狼的な”それっぽい”読み合いを繰り広げていく。セオリーの基礎だけでも抑えておくと、人狼パートではあまり致命的な選択をすることなくすすめる。ゲームオーバーになってもヒントが明確に次の答えを教えてくれる超親切設計なので安心だった。

 

素直に良作だと思うけれど、とある人物の扱いだけはかなり微妙だった。言ってしまえば前作に絡めたゲストキャラ的存在だったようで、本編中の展開や結末にかなり踏み込んできた割には謎を残したまま退場してしまい、クリア後のおまけモードを回覧しても本作で初めて触れた俺にはわけがわからないまま終わってしまう始末だった。販促活動に苦心した結果なのか、作者の愛が暴走した結果なのかは俺にはわからないが、なんにせよナンセンスだ。過去、伊坂幸太郎上遠野浩平入間人間らへんの同作者キャラがクロスオーバーしまくっている作品に疲弊した記憶が蘇った。

 

■グノーシア

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去年IGNの記事を読んでからずっとやりたかったゲーム。Switchを購入した動機の6割はこのゲームにある。面白かった。

 

人狼的ゲームがループによって繰り返されていき、ループの度に役職はランダムで決定される。その中で物語の進展につながるイベントが発生していくつくりで、その条件はただ会話イベントを発生させるだけのものもあれば、特定の人物を生存させたままゲームに勝利することが求められたりもする。

 

このブログ内外で散々書いていることだが、俺は人狼系のゲームが苦手だ。

まず、コミュニケーション力が低い。誰かと協力する対戦ゲーならば特定の目的達成のために最低限必要な情報を伝えるだけでいい(最悪コミュ力が壊滅的でも、プレイングだけは水準に達していればいい)のだが、人狼ではコミュニケーションが対戦とイコールになる。単純にコミュ力が低いだけではゲームの面白さを損ねる存在として排除される。もし生き残っても他者を扇動する側にまわるモチベーションも定石の知識も持たないため、熟練者達が政治的ゲームで取り合う駒のひとつに落ち着いて終わる。

 

また、リアルタイムでかわされる議論をロジックで処理するのも非常に苦手だ。優秀な人達の会議に居合わせると短時間のあいだにバンバン建設的な意見が出てくるが、あれを傍観している感覚に近い。

 

そんな雑魚の俺でも「グノーシア」は人狼的ゲームとしてじゅうぶん楽しむことができた。相手は人間が勝てるように設計されたNPCだから気兼ねなく議論に参加できるし、定石に沿った『妥当な行動』を吟味するための思考時間は十分以上に用意されているし、ループモノ作品っぽい攻略として、作中内NPCの癖・パターンを学ぶことでも優位に立てる。それすら苦手な場合も、ステータス上昇要素によるゴリ押し無双が可能となっている。まさしく、いたれりつくせり!

 

...とはいえNPCが弱すぎるというレベルでもない。結局狂人にかき回されて自分の予想が外れてゲームに敗北することもあるし、前述したように物語を進展させるために特定人物の生存が必要になってきたりなどする。たいていの場合、そうした条件下ではただロジカルに正解に向かって動くだけでは達成できないので、無理くり安パイなメンツを予測して派閥をつくりあげ、吊られることがないように働きかけてやる等のアレンジが必要になってくる。

 

クソ雑魚の俺に「楽しい人狼」の感覚を提供してくれた本作には感謝している。

 

ただそれでも気持ちのいいゲーム体験だけを純粋に求め続けることは難しく、途中から人狼ゲームの勝敗そのものよりも物語の進展に意識が向かっていくようになった。これに関しては自分自身がループに巻き込まれた主人公やセツの視点と同化しているのだからゲームを遊ぶ姿勢として不誠実にはあたらないと考えているが、ゲームに勝利してもイベントが発生しなかったループでは虚しくなってしまうし、イベントの発生しないループが続いた際、面倒くさい感情がもたげてきたことは否定できない。

 

とはいえイベントサーチ機能のおかげで基本的にはサクサクと謎が解明されていき、プレイ時間はおそらく10~15時間程度だったと思う。

 

物語部分に関してはSF作品テイストで、畳み方もすっきりと締まっていて素晴らしいものだった。「十三機兵防衛圏」と同じくなんだかんだで物語を読み解くのに必要な情報量は多いので、細部を忘れないうちに短期間集中でクリアしてしまうことが推奨されているきがする。

 

開発者の言及をみて、「新版 アフォーダンス」を読むきっかけにもなった。

感謝。

 

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