好きだけど人には薦めづらい作品

■西野 〜学内カースト最下位にして異能世界最強の少年

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最強の異能を持ち裏社会に名の知れた少年である西野が、表の学校生活を充実させようと奮闘するラノベ。西野は最強のメンタルを持ち、異能に頼らずとも多言語を複数流暢に話し、要領も良いのだが、顔面は平凡(周囲は二次元世界のお約束で美形がデフォなので、地の文ではフツメンだが相対的にブサメン)。それだけならいいのだが、本人が格好良いと信じる振る舞いを貫き通すので、ハードボイルドな言動を愛好するキモすぎる少年として周囲からは阻害されてしまう。本人の感性自体は年相応なので普通の生活、青春の謳歌、異性との交流に興味津々でかなりアクティブだが、ドン引きされまくるため学校では孤立するし、いじめられる。だが裏社会の住人だけあってメンタルが強靭なため、めげずにダンスやバイトを始めるし、異性に積極的にアプローチしていく(だいたいキモがられる)。

 

西野はドン引きされながらも周囲と良好な関係を作ろうとする努力を怠らないし、クラスカースト最上位のイケメンにも普通に自分から絡みに行ったりなどするし、冷遇されても他人を恨まずに研鑽に励む善性を持っている。反目にめげない西野のキャラが立ちすぎているため、公式サイトでメインキャラとしてピックアップされているローズを筆頭として、早々に西野になびいてしまうヒロイン達の魅力は相対的に薄まる(終盤まで一切のデレが無い委員長は逆にその分引き立つ)。

 

人に薦めづらい理由としてはシンプルに文章が粗い、登場人物の性欲が強調されがち、西野がキモすぎて無理な人が多そう、物語序盤は西野の健気な努力が一切報われない、などが挙げられる。

 

よくそんなんで読み進めたものだなと言われそうだが、俺はweb版の「テイルズオブ西野」から入り、だいぶ読み進めたところから作者の応援も兼ねて書籍を購入しはじめたので問題無かった。商業ベースから開始していたら絶対に放棄していたが、死ぬほど暇なときに無料で読む作品は読書を続行かどうか判定するまでの猶予期間が長くなる。

 

kakuyomu.jp

 

率直に言うと低俗な物語と言われても否定は難しい。しかし俺は低俗な人間たちの群れの中でひときわ低俗なまま輝きに手を伸ばし続ける西野が普通に好きなキャラになってしまったし、たまに西野が努力を報われると俺まで嬉しく思うようにまでなってしまった。西野ら登場人物が打算的な俗悪さにまみれている様子も、かえってすがすがしい。読者にカタルシスを与えるために用意されている、西野がクラスメイトの前で才覚を発揮するシーンよりも、西野の泥臭い、悪意としてとられがちな日頃の行いに周囲の人間が影響を受ける描写の方が味わい深くなっている。これは『ニンジャスレイヤー』を読んでいるときの感覚に非常に近いと思っている(目玉になるはずのニンジャ同士のバトルや勘違いジャパン描写よりも、底辺の生活を送っている市民が輝きを放つ瞬間が一番おもしろい)。色々書き連ねたが、ファストフードを食べるようにカジュアルに楽しむのもええやんくらいのノリで読んでいる。

 

けっこう長く楽しんでいたが、最新巻にて次巻で完結する旨が明言された。

ホスト編はけっこう盛り上がったが、さすがにネタが切れたっぽい。

 

■胎界主

www.taikaisyu.com

 

超長寿web漫画として定期的にコア層?から言及がある漫画。

 

かなり好きだし10年以上定期的に読んでいる俺でも第一部は飛び抜けて読み辛く、この1点で人に薦めることがかなわない。設定の複雑さや解釈が分かれるような描写もそうだが、もっと素朴な問題として、難解さ故ではなく説明の拙さによって読者が行き詰まってしまう(物語の理解に必要な最低限の描写が用意されない)。第一話から、主人公に似た外見の一発キャラが登場して初期verで初見読者の混乱を招きまくったため、主人公(稀男)の描写を冒頭に加筆することで緩和したらしい(できている...のか?)。

 

作者が根っからのインディーズ気質な生活で漫画を描き続けていることもあり、この読みづらさはテンションだけで突き進んだ結果なのか、シンプルにうまぶった結果なのかは不明だ。第一部までは漫画画像の下にセリフ一覧と共に解釈が別れるシーンの作者解説テキストまで置いてある(ここは解釈別れるようにしてますよ~ってやつ)。

 

俺も最初に読んだときはノータイムでブラウザバックしていたのだけれど、10年以上前、東京でん太さんという読書感想クラスタのブログ『スパイシー・スパイシー・ドロップ』にたまたまたどり着き、彼の胎界主に関する熱心な感想やつぶやきに興味を引かれて再読した結果、一気に当時の最新話(たぶん第二部でどん底からルーサーが開き直ったあたり)まで読み切ったという経緯がある。でん太さんは記録ひとつ残さず、入念にwebから姿を消してしまったためその記録を読むことはもう叶わないのだけれど、今でも胎界主を読むたびにあの人は今もこの漫画を読んでいるのか気になるときがある。

 

ちなみに、漫画的なわかりやすさは第二部以降かなり改善されている(と感じる)。また人間性に厳しい視線を向けるポーズをとりつつも、最終的には希望を見いだせるような人情ドラマ的な色が濃いので、容赦の無いエログロ描写や遠慮無しに連発される作中独自の造語を乗り越えられれば...といったところだが、やっぱり第一部の読みにくさが飛び抜けてヤバすぎるため人に薦めたことは無い。と思っていたが作者の生活が困窮していると見聞きした経緯があり、3年半ほど前に、一度だけ強めのおすすめをしていた(他にもやってたかも)。

 

 

あとで読み返すとこういうツイートは本当にはずかしい。

 

身近で感想を語り合っていたネットフレンズや大学の友人との付き合いは全て消失したので、ラストマン・スタンディングも作品体験に加えてたのしんでいる。俺が死ぬまでに完結したら嬉しい。

 

空が灰色だから

 

 

物語の方向性の振れ幅がものすごいオムニバス形式の漫画。

 

漫画の根底を不穏さが支配しており、数秒前まで(ラブ)コメディをやっていたはずがページをめくった瞬間にキャラクターがどん底へ叩き落される、悲哀に満ちた物語へと変貌する...こともあれば、不穏さを演出しておいて平穏に着地することもある。オチまで何が起こるかわからない性質は明らかに週刊連載に適していて毎週チャンピオンの発刊を楽しみにしていた。

 

シンプルに陰鬱さが光っているだけの作品ならこの記事で取り上げることはない(そら薦めづらいやろで終わる)が、個人的に、徹頭徹尾コメディ担当でありつつやや鋭めな主張を投げかける(そしてやんわりと受け止められて消沈してしまう)和田璃瑚奈登場回が気に入っているので加えたくなった。

 

 

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璃瑚奈が出る話は平和に楽しめつつ面白い上3エピソードも用意されているのだが、本作でこういう方向性のエピソードは稀なため紹介しづらい。