エヴエヴオー、ブルージャイアント、ブルアカ最新の感想

 

■エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

本当は『ブルー・ジャイアント』を観に行く予定だったが、映画館の上映スケジュール観てたらもう上映始まってるじゃん!と驚いてあわててスケジュール変更。新しい作品に触れようとするときは己の直感に従うようにしているが、今回は例にない大成功。2023ベスト映画、生涯ベスト映画top5に入るかもしれない。

 

筋書きだけを見れば空虚に埋もれるように生きている人間が特別なきっかけをもとに奮起して絆を確かめる綺麗な物語。でまとめられそうだが、SF映画としての味付けがかなり奇天烈かつ珍妙な点──要するにクセの強さが説明をややこしくさせる。だが、そのクセの強さ全開の展開や映像こそが物語に大きなパワーをあたえている。

 

この映画は、インターネット時代に生きている我々の感情を表現してみました。言葉にはしがたいこのとてつもなく圧倒される感情をとらえて、それを乗り越えていきたいと思いました。始めから、エキサイティングなアイディアが3つありました。
1)バカバカしい闘いを繰り広げるSF・アクション映画
2)21世紀の移民の物語を通して家族愛を描く
3)あまりに多くの別宇宙に行きすぎ、哲学的な思想を探求することになるマルチバースムービー

 

公式サイトのメッセージで挙げられている上記1)の要素は実際かなりデカい。パワフルエンタメを提供するためだけの単なるフックではないことが、虚無感に囚われているため何をどう行っても無意味であると悟り無軌道に暴れるジョブ・トゥパキや楽観的な振る舞いで日常の空虚に抵抗しているウェイモンドの様子を見ていると分かる。

 

胡乱な味付けはされているものの結論は非常に素朴で、LoveとHumanityが高く掲げられるし、作中で最も誠実な人間がそれを叫ぶ。この予定調和エモシーンへ移行した瞬間はあ~ここまで楽しめたけど後半残念になるパターンかなと一瞬眉を潜めてしまったものの、コインランドリーやカンフー・バースの路地裏シーンへの接続で作品への印象は回復した。この種の悪く言ってしまえばありきたりな展開が王道としてポジティブに見れるのは、やはり作中を通して説得力を何らかの形で出せているからこそなんだろう(『バーフバリ』とかもそう)。バカバカしいだけものとして散在していた他バースが一斉に同じ方向性へと向かい出す爆発力には心を揺さぶられるものがあり、この一点で俺の中にあるいつものバリアをぶち壊されたと言っても過言ではない。

 

ただなあ~やはりエモ・シーンのイントロとなる叫び自体には今でも否定的だ。いきなり高尚な言動が飛び出してくるとその場面のために用意された台詞っぽさが出て、やっぱ身構えてしまう(このへんは原語でどう言ってるか聞き取れなかったし、細部の記憶があやしいので今後の2週目で再確認したい)。

 

ちょっとケチをつけてしまったがジョブ・トゥパキの不穏ながら華やかな立ち振舞い、カンフー・バースですり切れながらも人生を戦っているウェイモンドの風格、カンフー師匠の謎のキャラ立ち等など好きな要素盛りだくさんで、久々に王道Love&Humanity SF映画を堪能した心地がする。奇妙なのに不思議とまっすぐで爽やかな印象は5年くらい前やってた『犬ヶ島』に似ていて、あっちも久々に観たくなった。

 

外国語タイトルのカタカナ邦訳に「・」が混じるとカッコよくなるパターンとダサくなるパターンがあるとするならば、本作は後者。”Everything Everywhere All At Once”この綴りのスッキリさよ!

 

■ブルージャイアン

音楽で殴る映画。映画館の音響で聴くジャズたまんね~!などと、席数がガラガラの時間帯なのをいいことに体をくねらせまくりながら聴き入ってしまった。

 

音楽面は100点なので他の要素に言及するが、宮本の思想が思ったよりもマッチョだったのが印象的。まだ初心者の玉田をライブに立たせた件に注意されればアッサリとこれでダメならダメでしょくらいの態度、打ちのめされ落ち込んでいる沢辺に「してやれることは何も無い」と断言して自分のパフォーマンス向上に集中、まだ始めたばかりの玉田には何も言わないが沢辺にはガチ意見の具申...。ジャズバンドなんてお互いを利用しあう関係に過ぎない、などとドライな価値観を提示していた沢辺が実際はかなり親身に玉田をフォローしていた一方、ジャズの敷居は高くしないほうがいいと初心者の加入を歓迎していた宮本のほうがむしろ苛烈。プロット自体がクラシカルなマッチョ路線なので、このへんは良し悪しではなくこういう人間の物語なのだなあと感じさせられた(作中でも宮本はぶっ飛んでるやつと言及されている)。

 

なんとなく周囲で評判が良いからくらいのノリで観に行って実際満足はできたが、最序盤は不安が本気で途中退出してしまおうか悩んでいた。特に男性用トイレの小便器で邂逅する、昔青年誌とかでよく見かけた展開が始まった瞬間は本当に拒否反応が最大瞬間風速に到達してしまった。これ自体はなんてことのない描写なのだが、序盤の空気感から、それなりに盛り上がってそれなりのドラマが展開される青年誌の映像化で2時間使わされちまうのか!?みたいな不安が膨らんでいたのが大きい気がする。

 

ただこの映画は音楽で殴る映画なのでFirst Noteでの初ライブ以降は安心して音楽に聴き惚れる方向へとシフトできたし、それなりのドラマもほどよい熱量を持って見届けることもできた。映画館がライブハウスに!満足。

 

■ブルーアーカイブ

メインストーリーFinalを読んだ。解明されていない謎はまだ多く残ったままだが、物語の見せ方が抜群にうまいのでその一点だけで楽しませてもらっているタイトルとなる。

 

アトラ・ハシースの箱舟をどう突破するか攻略メンバーで全員思案するシーンでは超固いバリアがヤバいから突破できません!では済ませず、これこれこういう性質のバリアが本陣を覆っているのでこちらはこれこれこういうやり方を採用して突破します...みたいな過程を見せてくれた。さらに後々にはバリアやその内部について詳細な説明がなされていたのを踏まえた展開がしっかりと用意されている。シナリオ内でこのような魅力を出してくれるフリーミアムゲームアプリはメギド72とブルアカしか知らない。以前エデン条約編3章でエモい宣言そのものを問題解決の鍵にしたのも唸らされたし、やはりこれがブルアカ最大の魅力だろう(もちろんふわっとした奇跡が発生するシーンもあるが)。

 

と、言うだけで終わってもいいのだがやはり「先生」の存在が謎すぎる。「先生」周りエピソードに熱量を感じられずに終わってしまう瞬間が点在している。

 

「先生」=プレイヤーの分身ととれるように性別や年齢はぼかしている、というようなことをシナリオ担当のisakusanがどっかのインタビューで言っていたような気がするのだが、プレイヤーの分身として見るには、なぜここまで強い使命感を持って生徒に接しているのか、なぜキヴォトスにやってきたのか、「大人のカード」という超常的な力は何なのか...等不明な点が多すぎる。

 

よくわかんない存在でも善人だからいーじゃん?と妥協するにはミカをいじめてるトリニティ生を厳重に注意するでもなく丸く場をおさめるでもなく鬼のような形相でモブ生徒をにらみつけるだけだったシーンが悪い意味で強く印象に残ってしまっていた...。

 

ただプレイヤーの分身に位置づけられメタっぽいネタもかなり挟まれている以上そこらへんを気にかけていても仕方ないとするしかない。

 

先生は万能の存在ではないがとりあえず生徒に良好な影響を与える存在である

 

これだけ了解しておいてそれ以上は考えないようにしておこう。