撃滅のジェノサイドギグ 感想

撃滅のジェノサイドギグ

 

shonenjumpplus.com

 

超良かった。まずタイトルと扉絵(サムネ)が100点満点。

 

・手

この漫画は表現とテンポ極振りみたいなところがあるんだけど、とにかく”手”に魅せられた。

 

まずスタジオで初めてかさねと赤井がセッションするシーン

 

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ここの“手”で一気に引き込まれたし、ジェノサイドギグがステージで始まる瞬間からもとにかく“手”の暴力。カッコ良すぎて「野球のバッターのように、世のピアニストには演奏前にこういうルーティンがあるのか...!?」と動画とか検索しまくった(見当たらず)。この歳になってなおリアルで真似たくなる所作に巡り合ってしまうとは..。

 

・キレてる人が好き

抑えてきた激情をキレてぶちまける人が性癖なので、序盤時点でかさねが赤井の演奏を好意的に聞いていたところに悪意をぶつけられたときの表情がかなりツボ

 

あと本番でブチギレるところも赤井が馬鹿にされたから~だったら萎えだったけど自分のピアノをコケにされた点にキレてたのが加点。

 

赤井が傍若無人な立ち回りしてる風で意外と終始冷静なんだけど、逆に全部ぶちまけてるあいだのかさねが常にキレ顔なので加点

 

そして演奏が終わった後に満足げなかおをするとかじゃなくて、どこか呆然としたようでいて何らかの意志がみなぎっているにもみえる様子で赤井に話しかけ、音楽をやる理由を「言語化できない」と言い放つ直前のどこを、なにを見ているのかわからない瞳に爆加点

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・残酷な世界

かさねの自己評価が異常に低いのって本人の能力が高いが故にピアニストとしての自分の限界が見えてしまってガチで絶望していたせいで、だから普通に暖かく接してくれてるだけの両親にも「何も期待されてない」とか言ってしまうんだけど、部屋のトロフィーでもわかるようにバッチバチのエリート側。一瞬見せられて学校で会話中に聞こえてきた演奏を聞いただけのgenocideもあっさり覚えてスタジオのセッションで自分の味を添えて弾けてしまう

 

コピーバンドは身の程を知りすぎている凡人側なのでかさねを客寄せパンダとして利用できるよう無難な演奏をするよう圧をかけつつ、バンドとしての個を文化祭で披露しようとするが結局エリートが持つ能力によって撃滅されてしまう

 

ジャズの才能があるドラマーの保志は「すげえ...」と素直に称賛してるけど、黒髪の彼──面倒なのでインポ君と仮称しよう──は悔しげに口元を歪ませた後に「なんだよ 結局才能かよ ~~~」って冷めた顔になってなんか言ってる。言ってるんだけど、そのコメントはおろか表情すらもジェノサイドギグで生まれる音符によって撃滅されてしまう、アツい場面の裏で同時進行して突きつけられつつもそこすら視界の中では霞んでしまう冷たさ、残酷さ。絶対に覆せない能力差、勝敗が何気ない風に叩きつけられる冷酷さがかなり好きだ。

 

すんなり迎合したドラマーよりも圧倒的なジェノサイドのなか悔しそうに言葉を吐き捨てたインポ君の方がジャズの才能ありそうだなとか考えてしまったけど、実際のところそういう領域に彼はいないのだろうな...。なんせ演奏のための指よりも先に野暮な口と拳を振るっちまってるもの。いいね。2021年の藁人形も悪くない。

 

・ジェノサイドギグ

漫画で音楽を演出するのってムズくね?って思ってて、『ワンダンス』では作中で流れてる曲が明記されてるし『デトロイト・メタル・シティ』は音楽そのものじゃなくてアホアホ対決のビジュアルや歌詞のパワーをぶつけていた

 

じゃあこの漫画どうすんだろと思ったら演奏本番が始まった途端バンドメンバーも観客も擬音と音符で顔が塗りつぶされていた。確かにこれはジェノサイドギグだ。キチッと『セッション』のオマージュっぽいところも挟みつつ、タイトルに負けず繰り広げられる撃滅の奔流で飲み込んでくる

 

 

フセキ氏は新都社出身で、ジェノサイドギグも去年先にそっちに出していたようなので俺10年以上たってもまだあのサイトチェックせなあかんな...との認識を新たにした。

 

「撃滅のジェノサイドギグ」とつぶやくだけで身体に活力が充填されるくらいには気に入った。同人でもいいから紙で持ちたい