シャニマス 天檻の感想

 

良かった。グーだと思います。

 

 

これまでのノクチルのイベントコミュは進行がゆったりしていて、共通コミュやpSSRに対して時系列が巻き戻ってしまい、プロデュース時とのギャップに戸惑ってしまうのがネックだったが、今回の「天檻」では明確に時系列が進み、4人とも共通コミュ「Landing Point」を経験済のためそういうストレスもなくなっていた。

 

時系列の経過に伴い、4人を取り巻く空気も変化した。「天塵」の騒動直後は干されていたが徐々にユニットとしての仕事も増えており、冒頭のパーティーでは、むしろ業界人としての行儀の悪さがポジティブに評価されている。

 

 

好意的に見てくれる層が出現している!(じゃなきゃユニットは存続できないよね)

 

とはいえこれまで同様、白い目が消えたわけではない。コミュ内では直接触れられていないが、2話タイトル名『ずっと仲良しノクチルとか笑』は作中内SNS(おそらくツイスタ)に実際に投稿された内容だろう。

 

だが、ノクチルの受容のされ方にはいまだ緊張感がある。まず幼馴染”という特定の属性が抜き出され、露骨に消費されようとしているし、次に、浅倉透にだけ興味があり、他のメンバーをオマケとしか見ていない層がいまだ存在する。これは「天塵」騒動時に浮き彫りになったユニットとしての大きな問題のひとつがいまだのこっているということだ(「天塵」では番組側は浅倉にしか興味が無く、”浅倉くんとおまけのお友達”認識をストレートにぶつけていて、それに対して注意をしても一切取り合われず浅倉がキレたのが騒動の原因だった)。「天檻」のクライマックスシーンはこの騒動と対照的な構図になっているが後述。

 

4人の昔からの密接な関係をエモいノクチルとして消費する後ろめたさは鑑賞者であるプレイヤーにも当てはまるのだけれど、プレイヤーサイドでどんな自己反省をアピールしても欺瞞の域を出ることはできないので(ぶっちゃけそういう目的でこのコンテンツ楽しんでますとしか言えないやん)、長くユニットの輝きの伝え方、導き方に悩み続けているシャニPに狂言回しとしての役割を期待していたら、ちゃんとそういう話題も提示されたので安心した。

 

 

閉塞感に追いやられていきそうななか、問題意識を軽々と乗り越えるような展開を用意してくれたのはとても喜ばしい。

 

物語クライマックスの舞台となるプライベートイベント案件。ワイン坊やは浅倉にしか興味が無くステージの出番は浅倉にしか与えない、でも(たぶん斡旋元さんの好意で)ノクチル全員が参加するという歪な状況。最初に浅倉に話を持っていったシャニPもこの仕事受けたくないなら言ってくれなどと気まずそうに確認をとり、浅倉は内心でもう出ろって言えやとすら感じているっぽい始末。

 

もうノクチル側もシャニP側も、何より浅倉が気まずいだろうがどうすんだコレって状況だが、そこはフィクサー浅倉。ファイアースターターとしての才覚を発揮し樋口に歌の出番を回し、雛菜や小糸が踊り出し、ステージをジャックさせてしまう。

 

浅倉はコミュ前半でスカウトを受けた同校生徒の流れを受け「将来なのかな、今って」とつぶやいていた。4人がノクチルとして遂行する業務は立派なお仕事であり、既に子どもの頃語った”将来”の現在形真っ只中にいるわけだが、ただその将来の在り方、4人で自由に楽しくやっていくという要点は抑えている。

 

天塵で「こっち見ろ」と叫んでから作中でも時間が経過し、浅倉は大手も含め案件まみれで、むしろ浅倉ばかり見られがちな状態のなか今度は”うちら”に目を向けさせる一手、自信満々に歌唱を承諾する樋口、踊りだす雛菜と小糸...。「こっち見ろ」もそのまんま出てきて、とうとう花火の下で呼びかけた内容を現実のものとしてしまう。浅倉は「クジラのお腹の中で息してる」(浅倉「GRAD」履修済でないと理解不能。「天檻」はこれまでのノクチルコミュの情報が物語読解の前提となる、完全な一見さんお断り仕様)。

 

参加者は夢中になり、クライアントのワイン坊やも度肝を抜かれて大喜び。ノクチルを追ってきた人間には待ちに待った光景となるが、オープニングのパーティーに続きあくまでもクローズドな、地上波のような表舞台とは程遠い場で力を発揮するのはノクチルチルっぽくて良いねえ~(パーティーの参加者その13)。全員の欲しているものが完全に一致しているから、あの騒動の時のようなお叱りも起きない。

 

コミュ前半で小糸が「自分の意思にみんなが合わせてくれてしまう」とユニット仕事とバッティングした個人仕事を断っていたが、裏を返せばそれは一人が意思を示したら他の3人は合わせてくれるという証左でもある。オープニングで浅倉が水中で感じていたように「クジラのお腹の中で僕らは自由」だ。4人は今後も多少の怒られは覚悟の上で、積極的に”今”を望ましい・好ましい将来にしていくことになるのだろう。

 

ただ我等友情永遠不滅を謳うだけではなく、「透先輩は行っちゃうよ」と雛菜が好意的に断言するパートが挿入されているのもいい。雛菜は最初のpSSR時点で全ての物事の終わりを受け止めていて、そのなかには浅倉と並んでの活動さえも可能性として自然に含んでいる。

 

ノクチルが欲望的に消費される問題は、根本的に解決不可能だ(普通にしていれば凡庸な音がして終わり、反抗的な行動をとればそれ自体が理想的な消費対象と化す)。しかし4人がやりたいこと(欲求)を最優先に置くことによって他者の欲望は無視しつつ、見たい人にただ見せられるようになっている(こっち見ろ要件も達成)。シャニPもシンプルに「ノクチル最高だって、思ってしまった」。作中的には良い落とし所ではないだろうか。私的にはユニットとしてのノクチルモチベは低下ぎみだが、ええ結論やんと納得させられた(シンプルにこういうノリに弱い)。とはいえ4人はまだ子どもであり、それ故に自由を行使すると責任を負うのは本人ではなく大人であり管理役であるシャニPなのだが...。

 

仕事の斡旋元である業界関係者がノクチルを「クジラみたいなの」と形容しているのも面白い。浅倉は自分たちはクジラのお腹の中にいると認識しているが、他者からはそもそもこんな無茶苦茶なふるまいができるやつらは(シャニPがベタ甘なのが大きいとはいえ)そうそういないし、むちゃくちゃなやつらを暴れさせずにおける環境などあるのか?ないでしょ~って認識されている。

 

なかなか表舞台では評価され辛いノクチルの輝きをどう伝えていくかがずっとシャニPの悩みの種だったが、ようやく結論が見れて良かった。

 

 

ノクチルにとっての海は4人がえらび、進んでいく先に現れるものであって、社会人的なプランニングは役に立たない。まるで匙を投げたかのようにもとれるが、これまでのコミュやその最中でのシャニPからの説教も含めた経験と時間を積んだことで、既にノクチルの輝き/魅力は人々にじゅうぶん伝わっている状態。なのでもうシャニPが先立って航路を指定する必要性は無くなり、ただ4人の航海とその帰路が可能な限り快適で、また安全なものであるように手助けをしていく方向に決意を固めた。

 

 

これは相当に丸い、平坦な着地点ではあるが、「天塵」騒動後方々に平身低頭で営業をかけていたシャニPを思い返すと、そんな要約ほど簡単な道のりではないのが伺い知れる...。また、航海を安全なものとするためのリスクマネジメントが軋轢を生じさせもしているのが難しいところだ。そもそも本コミュでシャニPが浅倉に仕事を受けなくてもいいと気遣っているシーンでは浅倉の内心の不満が描写されているし、小糸GLAD、浅倉LPや【国道沿いに、憶光年】浅倉コミュ等でも同様の展開があった(このように「陸でいたい」が故の行き過ぎた心配りがマイナスに作用してしまったケースについては別の感想で触れる可能性がある)。

 

4人をつなぎとめているのは幼馴染としての関係性ではなくて今のアイドル業界でのユニット仕事と明言するのは小糸「W.I.N.G」等から伺いしれたとおり。4人は高校生で、もうじき過去から地続きがどうとかはあまり関係がない時期に突入していく。なにしろすでに”今”は将来であり、その可能性や分岐点は計り知れない。浅倉は行ってしまうが、他の3人にも既に具体的な目標や道筋は見えていて、みんな「好きなところにいくのがいい」。だからこそシャニPは「まだまだ思い出にさせない」と小糸に伝えているのだろう(ワイン坊や的には「寝かせてない味」)。俺的にもユニットが始動した当初は別にアイドルじゃなくても良かった人たちの集まりだけどだからこそ良い!という捉え方だったが、色々なコミュが積み重なった今ではまあ~4人にとってもちょうどいい枠組みだったのではないでしょうかくらいの温度感になった。

 

 

ここから余談

 

・よく飲み込めていないポイント:最後に4人が会場から逃げ出した展開

なんで逃げたのかわかってない。

 

オープニングと同じく、イベント後に参加者たちに囲まれるのがウザいしもう出番は無いから用済みとして逃げたのか、怒らせたであろうシャニPをかわすために逃げたのか(事務所の反対方向へ移動しているので後者?)。逃げ出しておきながらも、シャニPは必ず自分たちを追ってくると4人とも確信しているっぽいが...。

 

じゃれてるだけ?ただのノリ?なんもわからん。会場で”息してる”と感じた浅倉が海を目指したくなっただけなのか。なんもわからん。俺の頭がカタすぎてなんもわからんのだが、「行くか戻るか」「どっちが海か」等の露骨な発言、好きにやった4人を最後に迎えに行くプロデューサーという構図もあるし、とりあえずシャニPのノクチルに対するスタンスが間違った方向に行ってしまっていたのを浮き彫りにして(実質浅倉ソロ案件なのにノクチル全員参加の、しかもちゃんとした仕事じゃないプライベート案件・浅倉が不満を抱くような確認の取り方)、今後どのように接していくか、の決意表明と贖罪の儀式イベントをこなすのが主目的...という見方をするのはあまりにも味気ない。しかし別にはっきりとした理由を知る必要は無いし、飛び出したいから飛び出したレベル受け止めておくくらいでもいいなって気持ちもある。単なる息遣いをムリに解釈しようとしても仕方ない。

 

 

車内のこのやりとりが決定的なきっかけで、本当にどんな状況になっても同じことを言えるのか?的な気持ちを掻き立てられてしまったんじゃないかという気もする(追いかけてくるのを前提にした逃亡だったし、真っ先に怒っているかどうかも確認している